Life goes on

10年以上会ってなくて連絡もとってなかったHさんに、さっき渋谷のヒートウェイヴのライヴ会場で出会った。僕がHさんを知ったのは、『宝島』がまだサブカル雑誌だったころに同誌上で連載されていた彼女の文章を読んで、手紙を送り(郵便局留めの住所が載ってた)、それで彼女が編集していた青焼き印刷のミニコミの読者になったのでした。Hさんは関西の人で、京都や滋賀で時折、ライヴを主催していた。僕は彼女が主催する山口洋のライヴを京都や滋賀まで観に行ったり(ライヴというのは主催する「人」によって全然ちがうものになるのだ)、他のバンドの関西でのライヴ会場で一緒になったりしてた。でもいつしか連絡が途絶えてしまった。僕はHさんの住所も書いてあった手帖をなくしてしまったし(僕は実にいろんなものをなくす)、メールのやりとりをしたことはなかった。だから今日、会場でHさんの顔を見つけて驚き、思わず駆け寄ったら、他のお客さんが床に置いていた缶ビールを蹴倒してしまった(ごめんなさい)。お互いの近況を話し(10年以上連絡を取ってなかったのだから21世紀からの話となる)、Hさんが最近はAkeboshiが気に入ってるというので、「ああ、『ぐるりのこと。』のエンディングテーマの!」と、僕が応えて、当然、映画の話になった。「あの天井画をふたりが仰向けになって見上げながら、手を繋ぐシーン、すごい良かったよね」 と言うと、「結局、そうやって家族が救いになるでしょ! そういうのじゃなくてひとりで立ち直る映画はないのか!」と返ってきた。あああ、「人間の落下を食い止めるのは愛だけだ」って確かに山口洋も言ってるけど、それは男女間の愛情だけじゃなくて、もっとこうなんていうのかソーシャルなネットワークというか……、などというような口答えは年長のHさんに対して僕にはできない。でも、また会えてよかったよ。
ライヴも、とてもよかった。何も言うことないです。バンドは強力なロックンロールを奏でてた。消費ウイルスに感染した渋谷で(ちなみに帰り道に乗り換えで降りた高田馬場は酔っぱらい大学生があちこちにゲロ吐いてた。汚い)、ここには音楽を信じる力があった。新曲「Life goes on」、バンド編成で初めて聴いて、知らぬ間に涙が流れてきた。歌詞はここに載っています。アンコールに「魂込めて」歌われた「満月の夕」は涙も出ずに聴き惚れた。「鳴りやまないロンドン・コーリング」みたいに、誰も絶やさずに燃え続ける火もある。ステージから種火がそれぞれ観客に分け与えられていくような、そんなライヴだった。
Hさんは明日の「月の庭」(三重県)でのライヴのチケットが手に入らずに、関西からさらに遠く離れた東京まで来たそうだ(だから、僕は会えた)。僕は「満月の夕」のときに、明日、「月の庭」に還ってくるのために祈った。明日はすごいことになると思う。