「歪曲巡礼」東京公演覚書

僕が初めてshing02を観たのは、いま調べたら2001年7月4日だった。そのときの覚え書きが出てきたので、今回もなんかそんなスタイルで、素早くメモ書きで。忘れやすいのだ、僕は。
恵比寿駅を出て、横断歩道を渡ってると僕の前に、「歪曲巡礼」というバックプリントのある黒のTシャツを着てる女性が歩いていた。僕は人見知りだけど好奇心を発揮することも多い。shing02が「焦燥」という曲で、「不安」と「自信」が表裏一体と書いていたように。「そのTシャツはどこで購入したんですか?」といきなり声をかけた。「shing02のツアーTシャツですよね?」とたたみかける。「出るんです」と彼女。「え?」。「バイオリンを弾いてるんです」。「え、そうなんですか!」ということから、駅前の横断歩道からリキッドルームまでの間、当然アルバム『歪曲』の話になる。レコーディングとかこのツアーのリハーサルのこと。彼女は竹島愛弓さん。shing02の後輩、UCバークレー卒業(!)だそうだ。
リキッドルームは満員。男性率とても高し。9割ぐらいは男だった? 最初、DJ A-1ひとりだけのプレイ。ターンテーブリストというの? なんでこんなに素早く機材を扱えるのか、彼の手元の映像が観たい! 「A-1」という名前はどうしても僕はサンフランシスコのチャイナタウンにある「A-1 CAFE」を連想してしまう。そんなことはどうでもよくて、そのままshing02のフロントアクトとして、DJ A-1と、新人女性ボーカルCHIYORIが数曲。
このあと、再びステージにひとりになったDJ A-1のまさに独壇場。「美獣」のイントロが一瞬流れたから、もう盛り上がるフロア。でもそこから矢継ぎ早にさまざまな曲の断片を繋いでいくshing02ダイジェスト。「真吾補完計画」とか「luv(sic)」とか「400」とか懐かしい曲もいろいろ。「400」のときにはこのままshing02登場かと、たぶんあの場にいたみんなが思ったんじゃないかな。僕も騙された。
ステージのスクリーンに「歪曲」という文字が大きく映し出され、歪曲巡礼バンドのメンバーが現れた。メンバーの名前やツアースケジュールはこちら。一曲目は、ほら、もう忘れた。でも、「序」で、次が「銃口」と、アルバム『歪曲』通りのオープニングだったと思う。shing02は歪曲巡礼Tシャツの首まわりをY字に切ったのを着て、その上に、藍染めで和風な柄の布をマントのように翻し、ラップする。距離がちょっとあったからあのヘアスタイル(侍!)も含めて衣装はよく確認できなかったのだ。違ってたらごめんなさい。かっこよかったことだけは確か。
ラジオ番組にshing02に出てもらったとき(2002年2月だ)、「バンドでライヴをやってみたい」と聞いた覚えがある。でも、何年か前に朝霧JAM「Kosmic Renaissance」を観たとき、意外だった。shing02がバンドでやりたいというのはジャズ(?)なのかなあと。
2006年8月にREBEL FAMILIAに客演するshing02を観たとき、「これだ!」と思ったんだ。それから2年。ラジオで聞いてからはもう6年。shing02のバンドで、shing02が自分の新作をラップする! 前作からこの『歪曲』まで、制作期間もなんと6年。でも彼は、制作過程中の新曲を次々に自分のサイトにmp3でアップしていたから(歌詞も)、「殴雨」などファンには馴染みのあるライムも、ネット上の「過程版」ともアルバムとも違う、バンド・アレンジで披露されていく。
  2005年の夏至フェスでのステージで観たときのような、重力さえも自由に操り、月面を跳ねるようなパフォーマンスではない。動きは少ない。その分、僕は一語も逃さないように、集中を高める。繪夢詩であり革命家であり、思索しフィールドワークするラッパー。
「美獣」って、もしかしたらshing02編の『火の鳥』なのかも。根拠なしの直感。「luv(sic)part.1」から「Love You Like Water」の流れ、「抱擁」の完璧な美しさ。「400」の高揚。「ドレミの歌」のユーモア。アルバムと同じラストの曲まで、あっという間だった。アンコールの曲は、人類最高の叡智が詰まった歌。最高のライヴ。