鉄割とミリキタニ

鉄割をミニキテネ、じゃなくて、金曜夜に下北沢に劇団「鉄割アルバトロスケット」を観に行って、昨日、赤坂に映画『ミリキタニの猫』を観に行きました。
鉄割アルバトロスケットの下北沢スズナリ公演「鉄割のアルバトロスが」は今日が最終日。もう当日券出るかどうかわからないけど、これまでの最高傑作な気がするので見逃す人は残念。
いつものように数十秒から数分の演目というか、コントというか、わけのわからない世界が40編ちょっと、短い音楽のインターバル(劇中も含めて、音楽のチョイスがとてもいいのも鉄割の特徴)で繋がっています。不条理というか、「文脈」がずれた登場人物たちが言葉を交わしたり、変な動きしたり、ラップしたりの尋常じゃない異空間。僕は「意味」がまったくわからないものは、アートにしても(「アブストラクト」っていわれるもの?)なぜか怖いんだけど、鉄割のフールで、観客のほとんどが笑ってる演目の中にも、理解不能で怖いのもあります。主宰の戌井さんが出てる演目はなぜか安心してその狂いっぷりに笑えるのだけど。
僕が特に好きな演目はそういう文脈がずれた主人公同士の会話が途中で、お互いラップに変化していくものとか、最終的になんとか理解可能な世界に「トランスファーム」してくるもの。
今回、初めて観て釘付けになったのは、康本雅子さんという方が出てる演目。身体のキレがものすごく美しい。わけのわからない世界の中で彼女の動きはこの世のものとは思えないほど美しい。何者かまったくわからない状態で観たので(演劇の世界に僕は疎い。鉄割しか観たことない。ダンサー?)驚愕で、感動の、惚れ惚れでした。
数ヶ月前に出産したばかりのu.t(kiiiiiii)も舞台復帰していたのを観られたのもよかった。終演後、赤ちゃんを紹介してもらったよ。かわいかった。背が高くなりそう。
土曜日は映画『ミリキタニの猫』を観に行きました。
いつものように作品の前情報をできるだけ得ずに観ました。映画に関しては僕はそのほうが好き。楽しめる。ただし、今回は情報ゼロどころか勘違いしてた。「ミリキタニ」という語感から、ギリシア人の話かなと予想してたら全く違った。なんとなくギリシア人の名前のような感じがしません? それと村上春樹の紀行本『遠い太鼓』で、ギリシアの島には「猫が多い」と書いてあったので、ギリシアのどこかの島(クレタ島とかの)猫の話かと思っていたのです。全然ちがいました。
上映前の主催者の挨拶で、初めてこの作品が「ドキュメンタリー」だということを知り(最近、僕はドキュメンタリーづいてる。本来苦手なはずだったのに)、そしてこの映画が昨年か一昨年、「東京国際映画祭」で上映されたことを知りました。昨日の上映会の主催は「東京国際映画祭」の方たちで、上映前の挨拶に立った女性は、この映画に惚れ込み、映画祭での出品を熱望し、それが決まった際は「ガッツポーズをした」そうです。そして、ほんとにそのぐらい良くて、僕もまだ観てない人には観てもらいたいと思った、というのが観賞後の感想。今年観た映画の中でいちばんかも。
先日読んだばかりの友部正人さんの日記に、
6月15日(日)「ジミーさん、米寿」
今朝はセントラルパークで5マイルレースがありました。久しぶりに何人ものランニング友だちに会いました。
午後からは、映画「ミリキタニの猫」のジミー・ミリキタニさんの88歳の誕生日のお祝いが、彼の住む建物の娯楽室でありました。88歳とは思えないよく通る声で、「東京音頭」や戦前の歌謡曲を歌ってくれました。
という記述があり、それを読んだ数日後(木曜日)にこの上映会のご招待の話があったので、「うわ、偶然!」と思ったのです。そのときにはまだ「ミリキタニさん」=ギリシア人、と勝手に思っていたのだけど。
山口洋の昨年の日記にも、この映画についての記述があるんですよね。それでタイトルだけは記憶していました。『ミリキタニの猫』のプロデューサーのひとり、マサさんと山口洋は友だちだそうです。
というわけで、友部さんはミリキタニさんと直接の、山口洋はプロデューサーのマサさんと友だちだそうですが、昨日は映画の上映のあと、特別に、ニューヨークからのミリキタニさんの米寿のお祝いパーティの映像(残念ながら友部さんの姿は映ってなかった)と、マサさんのメッセージが流れて、すごく親近感を覚えました。観るべきタイミングで、観るべき映画だったのだと。
ここからは余談というか、前情報いらない人は読まなくていいところ。
ミリキタニさんは、カリフォルニア・サクラメント生まれの日系人でした。ニューヨークの路上でホームレスな生活をしながら日々、絵を描いてるアーティスト。第二次世界大戦中は、日系人ということだけの理由でツールレイクというところにある収容所に3年半拘束されていた。その出来事がミリキタニさんの暮らしを大きく変えてしまう。
この映画、すごく編集がいいです。ミリキタニさんを通して「歴史」が、「ピース」が伝わってくる。それに、監督がホントにミリキタニさんのことを好きなのが伝わってくる。でもベタベタしてない絶妙な編集。
ちなみに、ミリキタニさんが収容されていたツールレイクの収容所は、shing02が、ドキュメンタリー映画『DROPPIN' LYRICS』で「巡礼」した場所のはず。僕はこの映画も、まだ日本語字幕がない段階の試写を観に行ったのだ。