宮沢和史 弾き語りコンサート 寄り道2008

5月21日、宮沢和史の弾き語りツアー「寄り道」、原宿クエストホールに行ってきました。
THE BOOMでも、GANGA ZUMBAでもない、宮沢和史たったひとりだけのステージ、それも4年目のツアー。バンドではなかなかコンサートで行かない町やあえて小さな会場で開催される。今年はこの前日のクエストホールが初日。なんでも前日のライヴは観客に緊張を強いてしまったそうで、開演前にスタッフも集まっての緊急ミーティングを開いた、という裏話が披露された(このツアーはMIYAのトークも多い)。「結局、結論はでなかったんだけどね」と笑わせる。確かに緊張はする。「僕の部屋に来たつもりで歌を聴いてもらえばいいんだから、自由に、ひとりごと言ってたっていいですよ」とMIYAは言うけど、MIYAの部屋に来て自由に気軽に振る舞えるファンはいないだろう。でも悪い緊張じゃないんだから別にいいんです。歌にトークに、ギャグにも集中して聴き入ってる。長距離走のとき、最初の3キロぐらいは足の筋肉が緊張していて、その後だんだんとその緊張が解けてくるように、心もゆっくりと開いてくる。
余談だけど、いままででいちばん緊張したコンサートは、ジョアン・ジルベルトの最初の来日のときだった。開演時間になって「ジョアン・ジルベルトはただいまホテルを出発しました」というアナウンスが会場に流れ、さもありなんと、なぜかみんな嬉しい気持ちになったけど(ジョアンはエキセントリックなエピソードの宝庫)、幕が開くと、ジョアンのリクエストでエアコンが止められた会場を、緊張が支配する。僕は、足下のバッグの中に入れておいたiPodが、もしも何かの拍子でプレイボタンが押されてしまったら大変だという思いにさえなった。ヘッドフォンに繋がってるけど、ヘッドホン越しに漏れる音量でさえ、あの空間ではすごい騒音になる。咳するぐらいなら我慢して失神したほうがいいというぐらい。
先日のGANGA ZUMBAのライヴで、宮沢は「僕は夢を描き、そこに向かって走っている途中」と言った。でも、それだけでない道も行きたいということでやっているのが弾き語りツアー。ここでも音楽。宮沢本人は、オンとオフ(釣りなど)をきっちり分けながら活躍しているアーティストをうらやましいという。「だけど僕は貧乏性で、先日会ったBEGINには『なぜ難儀な方に難儀な方に行くのかわからない』と言われた(笑)」と。音楽への殉教者。音楽ワーカホリック(=MIYAZAWA-SICK)。
選曲はTHE BOOMの歌も、ソロの歌も、GANGA ZUMBAの歌も、ギターの弾き語りで歌われる。オリジナルとはまったく違うアレンジ、リズムになっている。オリジナルとまったく違うといっても、こうして弾き語りアレンジで歌っている本人が作者なんだからどちらがオリジナルとか関係ないのだけど。
「寄り道」ならではのじっくりと聞けるトークもファンには魅力だ。例えば今日は彼の音楽遍歴。中村雅俊のカバーから始まったフォーク少年を変えたのは、中学の昼休みの校内放送で流れたYMOの「デイトリッパー」。宮沢少年はその音に衝撃を受け、口に運びかけたパンをそのままに放送室に「これは何て曲?」と訊きに走ったそうだ。沖縄、ブラジルとの出会い。そして日本人移民について。
その道のりを宮沢は「かっこ悪いけど、自分はトライ&エラーで行くしかできない」と言う。全然かっこ悪くない。憧れから始まり、そこに旅し、人に出会い、音楽を創り、またそれを届けに行き、さらに人と深く付き合い、その土地を愛し、新たな音楽が生まれる。そんな旅の繰り返し。
僕は最近読んだブルータス最新号(「サッカーは地球を救う!?」と題された特集。すごくよかった)での中田英寿のインタビューを思い出した。環境に関するテーマのインタビューの中での一問。影響を受けた本や人物はいますか、という問いに、中田英寿は「いません。ニュースには目を通しますし、いろんな本を読んだりもしますが、結局自分の目で見たことが一番リアルだから」。
「寄り道」では、詩の朗読も歌やトークの合間に行なわれる。ツアーのために書き下ろした新作の詩。僕には、「自分」という詩、それから最初のブラジル移民、中川トミさんとの出会いから作られた(捧げられた)詩「ただ夏があるだけ」がとても心に響きました。僕も出席させてもらった、親友の結婚式にMIYAが贈った歌「ふたりのもの」が聴けたのもうれしかったです。
本編の最後に大きな歓声があがった。スペシャルゲストとしてTHE BOOMがステージに揃ったのだ。何年ぶり? 5月21日は、THE BOOMにとって特別な日。1989年5月21日、THE BOOMはファースト・アルバムをリリースし、いまはなき新宿の日清パワーステーションでライヴを行なった。僕もその日、その場にいた。19年も前のことだ。
4人での「中央線」の演奏。孝至くんはアコギ。YAMAさんはベースを持たずにコーラス。栃木さんは山口洋から借りてるアイルランドの打楽器バウラン。
さらに、MIYAの口から9月15日に横浜の赤レンガ倉庫パークでブラジルからジルベルト・ジル(THE BOOMとジルベルト・ジルは1997年ドイツで共演している)を招き、GANGA ZUMBATHE BOOMが出演するフリー野外ライヴの開催が発表された。THE BOOM復活!