「ホームグラウンドにようこそ、お帰りなさい」

午前中、多摩川沿いでの10キロマラソン大会「PARACUP 2008」に出場。44分36秒という自己ベスト記録! この大会の参加費は経費を除きフィリピンの孤児院などの支援に使われる。僕らランナーは完走すると、フィリピンの子どもたちが作ってくれたペンダントがもらえる。うれしい。
夕方、そのペンダントを胸に、「アースデイ東京」の会場、代々木野音へ。
「ホームグラウンドにようこそ」
これが今日、ステージを終えたばかりの楽屋で、GANGA ZUMBAのMIYAに僕が最初にかけた言葉でした。上半身裸のMIYAと握手。「全部制覇したね(笑)」。
アースデイでの代々木野音への出演で、MIYAは原宿ホコ天から渋谷にかけてたぶんあらゆるタイプの会場で歌ったことになる。それが僕にもすごくうれしかった。
1987年の夏に僕はこの代々木野音のすぐ横、ホコ天、路上で演奏するTHE BOOMの音楽に偶然出会い、足を止め、それから毎週彼らのライヴを観に通いだして……。ミュートビートが芝浦インクで、ボ・ガンボスが汐留PITでライヴをしていた時代。THE BOOMホコ天から始まり、原宿ロサンゼルスクラブ(今もあるのだろうか)、渋谷エッグマン、ライブイン、ラママ、クアトロ、渋谷公会堂NHKホール、代々木体育館……去年は代々木公園内の芝生の上でも演奏した。でもなぜか代々木野音には縁がなかった。それが今日で制覇。
初めての場所だけど、まるでホームグラウンドのようだった。もちろん、あの頃のTHE BOOMと今のGANGA ZUMBAではメンバーも、音楽性もまるで違う。でも、ホコ天の路上で道行く人の足を止めさせたのは、「彼らがTHE BOOMだったから」ではなく、僕には「きれいなメロディ」であったし、今日、たぶんGANGA ZUMBAの名前もきっと覚えられなかったような人も踊らせたのは(特に僕がいたステージ左手スピーカーのあたり)、リズムだ。
原宿駅の改札を出て右に曲がり、音楽が聞こえてくると自然と早足になってしまうのは昔と同じ。21年も前。10年一昔というけど、「decade」2つよりさらに1年多い! 今日は最後の信号を渡る前に、クラウディアの声が聞こえてきて、焦ってさらに早足になった。一曲目は沖縄音階のダンスチューン「ちむぐり唄者」だったらしい。
次の曲が、僕は3年前にメキシコで初めて聴いた彼らバージョンの「風になりたい」がさらに進化したもの。オーディエンスがそれぞれ自由に踊る。子ども連れもいるし、朝霧JAMな感じの、ポイをまわしながら裸足で踊る人もいる。ホコ天みたいだなと思った。ビールを飲んでる人、外国人、カップル、女の子女の子女の子。さまざまな人がいて、彼が誰か知らなくてもその音楽で踊ったり、にっこりとしたり。「忘れるために踊るわけじゃない」。新曲のサンバの歌詞の中で頭に残ったフレーズ。「ディスコティック」や、スカのリズムの曲「Wonderful World」(いつも僕はこの曲をライヴで聴くと、後半のパートがレピッシュに捧げられてるように思ってしまう)で、あっという間のステージ。
彼らのファンだけが会場を占めるワンマンライヴより、僕はこういった場でこそ効果のあるのが彼ら、GANGA ZUMBAのリズムだと思う。ロックをずっと追ってるわけではない、でも音楽が好きで、世界中のリズムにオープン・マインドな人たちは、音楽ビジネスからは無視されがちだけど、いる。こういうところに。だから、今日も友だちにたくさん会えた。
GANGA ZUMBAはメキシコでも、ここでも、彼らのことを知らない人たちを踊らせる、笑顔にさせる。ホームグラウンドのように迎えられている。「GANGA ZUMBA(ガンガズンバ)」とは16世紀だったか(自分で調べたのに忘れてしまった)ブラジルの黒人奴隷制から逃げ出し、解放区を作ったリーダーの名前。MIYAにはもっともっとその旗を高く掲げて、今日のような解放区を広げていってほしい。おかえりなさい。
そういえば僕が文章を書いてそれ(ミニコミ!)をコピーして配り始めたのもこのホコ天だった。21年も前。「ホームグラウンドにようこそ、お帰りなさい」という自分の言葉が、自分にも向けられた言葉のような気がした。
今日はロシアからアルゼンチンまで世界中をツアーしてきたGANGA ZUMBA渋さ知らズオーケストラが、「アースデイ東京」2日間の豪華なラインナップを締める。
渡部さんのMC、今日は完璧だったな。「おまえら何でもいいから考えてるフリでもいいから何か考えろ」「道に迷っても3人いれば、なんとかなる」。去年、辺野古フェスで観て以来の渋さも、やっぱり何も彼らのことを知らなくても(僕だって何度も観てるのに曲名何も知らない)踊り、騒げて、一緒に声をあげることができる。
最後の最後、「what a wonderful world」最高だった。GANGA ZUMBAとの素晴らしき偶然。そして、まさにアースデイのフィナーレ。ここでもまた僕の頭の中にはいとうせいこうの昨日の「暗示の外に出ろ。俺たちには未来がある」という言葉がリフレインした。
帰り、いつもなら原宿から新宿までは軽く歩いちゃえるけど、今夜は筋肉痛でダメでした。電車内の週刊誌の吊り広告。あまりにもワンダフルじゃない見出しの連続に頭まで痛くなったけど、目の前のカップルが今日の午前中に僕が出場したマラソン大会のボランティアスタッフTシャツを着てることに気づいた。彼らは眠り込んでいたので、僕は心の中で「ありがとう。おつかれさま」と言い、それでまた世界はワンダフルになったのさ。彼らが起きてたら、僕の胸のペンダントに気づいたはずなのに。