映画『インサイド/アウトサイド』上映会

ストリートアート? グラフティ? 街頭のアート、落書き。でもこのドキュメンタリー映画の主人公のひとり、ヒョウ柄ストッキングを頭からかぶったパリの男、ゼウスは、それを「ビジュアル・アタック」と呼ぶ。
〈「人々は誇大広告の潜在的な影響力に気づいていないんだ。僕は赤いスプレーで広告モデルの額に点を打って“殺す”ことで、広告の力を剥奪するんだ」〉。
パリだけではなくニューヨーク、サンパウロストックホルムなど、とにかくそんな「コンクリート・ジャングル」の路上アーティストたちのドキュメンタリー。実験的なものもあれば、プロテスト的なものも、ただ単に自分の名前を誇示したいだけなんじゃないのというのもある(そういう「署名」は「タグ」と呼ぶそうだ。映画の中ではまさに誇示したいだけでゼウスの蛍光灯アートの前でタグを残した大学生みたいな男に、カメラは愉快な仕返しをする!)。
渋谷アップリンクでは映画『インサイド/アウトサイド』の上映期間(1週間)に、
〈この作品を読み解く鍵として、"REBEL/反抗"をテーマにした7日間連続のイベント+上映。イリーガル・アートはアートなのか? 表現に規制は必要か? アートで反戦活動は可能か? そもそもアートである必要があるのか? などをテーマに様々な分野からゲストを迎えて開催します。〉
というイベントを行なう。
そして、今夜のゲストは、Shing02(革命家)、鈴木ヒラク(アーティスト)、JUNZO(ミュージシャン)、伊東篤宏(美術家)
※名前の後の肩書きは、サイトに掲載されてあったもののママ。
映画の上映のあとに、上記メンバーによるライヴ+ライヴペインティングがあった。
Shing02はラップではなく、彼が開発に関わった楽器「FADERBOARD」。でも数年前に朝霧JAMで観たコズミック・ルネッサンスのときよりずっと面白かった。それは音楽自体の違いもあるし(この映画の音楽にもshing02は参加しているらしい。もしサンパウロのシーンで流れてた、和太鼓のような音が鳴り、沖縄のお囃子のようなものが入った曲がshing02の作品だったらすごいな。この映画は音楽もとてもよかった)、彼らの後ろ、映画スクリーンがあった場所に描かれていくライヴ・ペインティングの良さもあった。ライヴ・ペインティングって実は「本当は音楽とシンクロしてないでしょ」と思うことがこれまで何回かあったんだけど(アートの素人である僕の感想です)、今日はコラボしてた。リズムとりながら描いてた。
第3部は、Shing02とRAS TAKASHIのトーク。司会なしでshing02に放り投げ。なぜ今回「革命家」という肩書きを名乗ったかなど、含蓄のある話ばかりで、僕は途中からバッグの中に入っていた付箋紙にメモとりはじめたけど、ここでは紹介しない。でも、この前のカクマクシャカが出た新宿ロフトでのトークとか、先月だっけサウンドデモ・サミットなどでも感じ、考えたこと。
RAS TAKASHIさんは何故かアートから外れ、「食」についてずっと話していたけど、こちらも映画『食の未来』を2年前に観てから考えていたことと同じだった。そして今日、会場で僕を2年前に『食の未来』の授業(武蔵美の関野吉晴さんの授業で上映された)に誘ってくれた画家のやすしぃー君がいて会えたのも嬉しかった。
滅多に聴くチャンスがないshing02のフリートークで、彼が「完璧で、隙のない人ではない」ことがわかって良かった! もちろんshing02は理知的でスマートだ。彼のリリックやレポート(特に「僕と核」)やあの風貌からすると、贅肉はゼロで、知性が行動力というしなやかな筋肉をまとった人、と思ってしまう。でもトークを聞いて少し安心した。例えば、佐野元春さんは喋ったことがそのまま文章にできるような、最初から最後まで論理的な話し方をする。スピーチといったほうがいいかもしれない。僕らはshing02もそうだと思ってた。韻さえも踏むかもしれないとか。でもそうじゃなかった。同じことを繰り返すこともある。言い始めからうまく着地しないセンテンスもあった。でも進んでいく。そしてトークの最後にはそれは聞いている人たちの心を動かすテーゼとなって提示される。現在進行型の思索家であり、行動家であることがわかったのがすごく良かった。
以下は僕の不完全記憶からサンプリング。
「“カルチャー・ジャミング”がひとつのキーワード。メディアの盲点を個人レベルで突くことでマスに考えさせるきっかけを与える。“不自然”に気づかせるのがビジュアル(の効果の)第一歩。それをどう受け止めるかは人それぞれ。(ストリート・アートが)違法、合法というのはと関係なく、思ったことをすぐに、直接発することはヒップホップと繋がる。価値観は住んでる環境で人まちまちなのが当たり前。その当たり前の現実をきちんと受け止めて発していくこと」
「知りたい、調べたいというの(好奇心)が“ゼロ”であって、それが自分のものになって、行動したときに自分が変わる。それが“ステップ・ワン”」というようなことを言っていたけど(これは、いま調べたら「ポリチカ」で同様のアイデアを文章にしている)、彼の表現方法、行動の原動力が少しでも覗けるトークだった。最後の最後、一瞬だけ挨拶と握手ができた。ニュー・アルバムが待ち遠しい