「数学的にありえない」

数学的にありえない 上

数学的にありえない 上

冒頭のポーカーの場面から物語にひきこまれた。確率論を説明するのに、こういったカードや、サイコロ、コインの表裏といった例は確かにわかりやすいし、その後も何度もそういった小道具を使うシーンは出てきて、そのたびにこのストーリーにおける作者の論理を補強していく。「深夜特急」とか「カイジ」とか、ギャンブルの確率シーン好きだもん。それがまさかスパイ(「ソルト」みたいな出自!)や、ユングといった要素が出てくるなど、坂を転がるサイコロの目が次々に変わるように、出演者、場面が新しく出てきて、読むのが止まらない。

(以下、好きな文章、転載)
「重要なのは、たとえなにが起ころうが、もしくは、なにが起こっていると自分が思おうが、おまえにはまだ制御する力が残ってるってことだ。自分が自分であるってことを思いだせ。なんとか切り抜けろ。錨を下ろして自分をどこかに固定する方法を考えるんだ。安全な場所を探してもいいし、いっしょにいて安全な人間を見つけてもいい。そして、たとえ自分が創りだした世界がどんなものだろうと、その世界で賢い判断を下せ。そうすれば、最後には現実に戻る方法が見つかるはずだ」
インターネット、GPS、街中の監視カメラ(衛星カメラも)などがあるいまの世の中で、KGBだ、北朝鮮だに追われて逃げきることは、「数学的にありえない」ことだろうけど、それを成立させてしまうのがこの小説の仕掛けのおもしろさ! 訳者あとがきを読んで、作者のプロフィールを知ると、虹色のテディベアを買って向かった先でのできごとが(さらに)とってもいいなあと思えてきました。