12時間デモ行進、高尾山→吉祥寺

雨の一日、高尾山口の駅を朝9時30分に出発して、夜9時30分に吉祥寺井の頭公園まで、12時間を歩き続けました!
高尾山でトンネル工事が始まってしまい、こんなでたらめでひどい工事があるものかと、立ち上がった人たちの呼びかけで、僕も参加。僕にできることはたいしてないけど、歩き続けることぐらいだったらできる。それに、高尾山から吉祥寺まで歩くなんてこんな機会がないとできない。まあ、普通はやろうと考えないだろうけど。
出発地の高尾山口駅から吉祥寺駅までは、電車の距離で32キロというので、歩く道はもっともっと距離があるだろう。フルマラソンの距離以上だろうな。
高尾山のトンネル工事の問題点については、先日の「週刊SPA!」に掲載された「大ウソ試算を全暴露 国交省の狂気に高尾山が壊される」という4ページに渡る記事が詳しくわかる内容です。要約すると、あやふやな試算によって、必要性が問われないまま、巨額の税金を使った高尾山のトンネル工事が強行され、その工事によって山の中の水が流失して、この地域の生態系が破壊されつつある、ということ。
12月12日が、コペンハーゲンで開催中のCOP15にあわせて「世界同時アクションデー」とかで、三多摩地区は吉祥寺の井の頭公園から代々木公園まで歩き、そこで東京の環境団体が集結して、COP15に向けてアピールをするという。僕自身は、正直なところ、COP15がよくわからなくて、わからないからそれに対してもの申したいことも、期待することも特になくて、だから「C02削減」とか「温暖化に対策を」とか大きすぎることよりも、高尾山のトンネル工事とか、宮下公園のナイキパーク化問題とか、派遣や雇用の問題だとか、国や企業が僕らの場所や生活を奪っていくことに反撃するほうが性に合ってるっぽい。高尾山や高尾が好きな人たちには、去年の「ひかり祭り」や、今年10月の「高尾天狗トレイルラン」ですっごくお世話になってるし。
中央線のダイヤが乱れるぐらいの雨で、僕は集合場所の高尾山口駅に出発時間から15分遅れて到着。全員、前に会ったことのある人たちだった。高尾山口駅前で集合写真を撮影してスタート。公安も二人(彼らは一人では行動しない)付いてくる。僕の装備は雨のときの野外フェス用。防水の上下カッパに、ポンチョもかぶる。靴はGORE-TEXのトレッキングシューズ。出発前に防水スプレーをしてきたけど期待はできない。長靴にしなかったのは長い距離を歩くのに向いてないと思ったから。参加者みんなもそんな感じ。
しかし、デモに肝心の(正確に言うと今回は「デモ申請」を出してないからデモではないのだけど)、主旨をアピールするプラカード類を持ってきたのが、ひとりだけ(えらい!)
僕も前夜、角材と段ボールでプラカードを用意したけど、この天候で、すんなり持参をあきらめた。主催チームもなんにも持ってないもんねー。こういう長距離、長時間のデモのときはtwitterで中継すると、途中で合流しやすいかもとか思うけど、僕も含めて、携帯電話で実況する人はいないし、写真撮ってるのも僕の携帯だけ。天候で、「アピール」から「走破」にみんなの優先ポイントが自然に切り替わってるのがおもしろい。
それは歩くルートの選択にもあらわれてる。最短とか、人が多くてアピールできる道というよりも、気持ちよく歩ける場所を嗅ぎ分けて進んでいく。とはいえ、散歩ペースではない。ぐんぐんと歩いていく。高尾駅周辺でふたりが合流。
八尾王子市役所のあたりで、去年、僕にとって初のドラムサークルを体験させてくれたファシリテーターが、犬を連れて僕らを迎えてくれた。「高尾山にトンネルを掘らないで」Tシャツを着た犬、かわいい。
1999年のシアトルの乱以降のデモのありかたに、新たに「dog bloc」が参入!
しばらくは川沿いをずっと歩き続ける。鳥の名前とか、草木の名前(ツクシとかクルミなど食べられるもの中心だったけど)を教えてもらったり、来年の「高尾天狗トレイルラン」に向けて、トレラン部を作ろうなんて話しながら歩く。シュプレヒコールはゼロ(全行程通じて、ゼロだった。12時間のデモのうち、一回もそういうのがないってすごい記録!)。だいたい、雨の川沿いの道なんてすれ違う人もほとんどいないのだ。
対岸には建設中の大型マンションが見える。護岸工事をしている場所も多い。橋の上は車が渋滞している。とことこと川岸を歩く僕らとは別世界で、そこでは時間を3分間短縮することが、1400億円分の価値を持っている。
川沿いから離れて、幹線道路に入っていくと、途端に歩くのがつまらなくなる。すぐ横を車が走ってる。歩行者の行くスペースが狭い。雨はやまなくて、水たまりを車がはねる。
灰色なイメージの八王子市からいつまでも抜け出せないまま、お腹も空き、だけど公園には雨をよける屋根もなく、北八王子駅の歩道橋下で、立ったままお弁当を食べることになった。僕の弁当は、重ねたご飯の合間に醤油を付けた海苔をはさんで、いちばん上に茄子と、鮭を載せただけ。駐輪してる自転車の荷台に各自、荷物を置いて、立ってお弁当という状況の中で、持参のガスコンロを取り出して、熱いスープをぱっとつくってる人もいる! みんなで少しずついただいてあったまる。
降り続いてる雨で身体が冷たいのだ!

やっぱり歩くなら川沿いがいい。
海からここまで42キロという標識を見て、「ここからフルマラソンの距離で東京湾なんだ」と考える。公安はもう付いてこない。僕ら、ただ歩いてるだけだし。
靴は防水機能を失い、浸水中。それはみんな同じ条件。しかし、このチームは強い。「こんな雨の中、歩くなんてよっぽどの変わり者か、Mだよね」なんて笑ってたけど、普通のデモではありえないようなスピードをキープしたまま進んでいく変わり者でMな僕ら。ハーフマラソン歴10年以上とか、競歩の選手だったとか、元・木こりだとか、学生時代は陸上部から助っ人として請われて大会に出てたとか、ボクシングをやってたとか、それぞれそんな経歴を持ってることが、次第にわかってくる。トンネル工事による高尾山の危機を訴えるという最初の目的はもうどっかに洗い流されて、スパルタンな遠征になりつつある。でも、しゃべりながらだから楽しい。
八王子市をやっと抜けて、日野市、立川市を抜けていく。
国立駅の近くで、ようやく行き交う人たちと遭遇した。
カッパを着てない人たち。普通に服を着て傘をさしている人たちに会うと、「あーあ、その格好だと一時間も歩くと足下ずぶ濡れになっちゃうよ」なんて思うけど、そんなのは大きなお世話だ。普通、人は一時間も歩かない。ましてや雨の中を。
ずぶ濡れの僕らは駅前の商店街の中にとけこめなくて居心地が悪い。早くここから離れて、住宅街の中を通り抜けて次に進みたい気分。一旦、足を止めると、身体が冷えきって、歩き出すのが苦痛になるのだ。
楽しみにしていた多摩蘭坂、再訪。
初めて来たのは、20年近くも前のこと。あるバンドの曲のビデオクリップの撮影に、ここもロケに来た。というか、国立の駅舎を撮ったあと、僕の個人的な思い入れからカメラマンと一緒にここまで来た。あれから長い年月がたち、僕は自分の本に「無口になったぼくはふさわしく暮らしてる」と、この「多摩蘭坂」の中のフレーズを引用した。この曲を書いた僕の大好きな人はもうこの世にはいない。
前に来たときは、白いガードレールにいっぱい落書きがしてあったな、って思い出す。僕は歩きながら、あの歌を口ずさむ。石碑の上には、いくつものギターピックが置かれている。
多摩蘭坂の途中で、僕らは家を借りずに、代わりに八百屋の軒先に「ご自由にどうぞ」と書いてあった段ボール箱から、セロリを一本もらった。すぐに齧りつき、隣の仲間に「これ、美味しいよー」と渡す。このときの気持ちを、スティーヴン・キングの「死のロングウォーク」の中のスイカを分け合うシーンを、わかる人は思い浮かべてシェアしてください。セロリの生命力が冷えた身体の中に流れこんできたような感覚だった。
その直後、雨宿りをしていたコンビニの軒先(というのかな?)で、このデモのことをインターネットで知っていた、多摩蘭坂の住人であるバンドマンが僕らを発見してくれて(プラカードもなにも持たず、意味不明、単にこの雨の中を歩いていた集団が怪しげで分かったのだろう)、声をかけてくれた。多摩蘭坂に来られたのと、セロリとその激励だけで、「これだけで僕はこのデモに参加して良かったです!」宣言をする。すごくうれしかった。
国分寺駅で新たに二人が合流。
さらに、雨の中を僕らの通過を待っていてくれた「うさぎかい!」の方から、手作りの美味しいクッキーをいただいた。お礼を言いながらその場で次々に口の中に放り込んでいく。
イラクの子どもたちとの交流でもらったスパイスを使って焼かれたこのクッキーを手のひらにのせているのは、武蔵小金井で合流した勇敢な子どもたち。
陽が落ちて(でも雨は止まない)、暗くなった住宅街を地元の方の案内で歩いていく。刷毛(はけ)の道を僕らは進む。大きな公園がいくつも現れる。合流組のひとりが持ってきたカズーの演奏で、僕らは笑う。RCサクセションの「僕の好きな先生」や、ビートルズの「オブラディ・オブラダ」など、デモにぴったりの曲を歌いながら歩く。楽しい。

子どもたちにとっては夜の、しかも雨の中を何時間も歩き続けるなんて、大冒険だっただろう。でも、がんばって歩いた。僕らも到着後に待っているだろうあったかい食事について、あれこれ話しながら楽しく歩いた。
三鷹市に入り、ジブリの森を右にしたときに、午後9時過ぎ。
ゴールの吉祥寺・井の頭公園野外ステージに到着したのは、9時30分。高尾山口駅を出発してから12時間がたっていた。
とっても美味しいおにぎりと豚汁と沢庵、それにみかんと、メロン(!)を僕らはあっという間に、たいらげた。
サポートしてくれたすべての人たちに感謝!