岡村淳 ドキュメンタリー作品上映

作品を観て(読んで、でも、聴いてでもいいけど)、その作者と「話したい!」と思う作品と、そうじゃない作品があると思うんです(優劣とか好き嫌いとかとは別に)。先日観たハリウッド映画の『ミスト』は面白かったけど、監督の名前すら知らないし、特に興味もない。原作がスティーブン・キングの大好きな小説だったので観ただけで。
でも岡村淳さんの作品を観たら、岡村さん自身に、僕の感想は非常に拙い言葉で「感動しました」ぐらいしか言えないけど、それでも直接伝えたくなりました。終演後、たぶん同じ気持ちになった人たちの列に並び、伝えました。
僕はこの一週間で、大学3校行きました。早稲田、法政(映画『サルサとチャンプルー』上映とシンポジウム)、それに東大。まるで、自分の偏差値がよくわかってない高校生の大学下見旅行みたいです。チベットキューバ、ブラジルの世界旅行とも言えそう。
上映作品:
『60年目の東京物語』(36分)
『赤い大地の仲間たち フマニタス25年の歩み』(66分)
会場:東京大学 駒場キャンパス 18号館ホール
出演:宮沢和史、岡村 淳 司会:石橋 純
料金:無料(カンパ制)
主催:東大中南米科 共催:FIVE-D、ラティー
司会の石橋順さんは東大のラテンアメリカ科の教授。素晴らしい司会ぶり。その石橋さんが「オルタナティブ・ドキュメンタリー映像作家」と紹介した岡村淳さんは、テレビのドキュメンタリー出身で、約20年前にブラジルに移住。撮影、映像、編集、上映(上映会にはすべて本人が出席!)という「全部、自分で責任とりたいからこうなった」という方式をする映像作家。
去年4月、武蔵美関野吉晴さんの授業で(何度も勝手に出席させてもらっています)、僕は初めて岡村淳さんの名前、映像、そしてトークっぷりを知りました(やはり本人が出席してた!)。そのときもこの日上映されたドキュメンタリー『赤い大地の仲間たち フマニタス25年の歩み』の感想を書いたので、その一部を以下に載せます。
『赤い大地の仲間たち フマニタス25年の歩み』は、佐々木治夫さんという、1930年浜松生まれ、28歳でブラジルに渡り、パラナ州サンジェロニモダセーラで教会を創った神父を撮ったドキュメンタリー。ブラジルに渡ってすぐハンセン病患者に出会い(ここらへんゲバラ『モーターサイクル・ダイアリーズ』を連想しました)、それがきっかけでハンセン病患者のための診療所を創り(その名前が「フマニタス」)、現在は「土地なし農民」のために活動している神父。神の教えを説くだけではなく、ストリートチルドレンたちには学校と働く場所が一緒になった施設を創り、「土地なし農民」 をサポートし、有機農法を指導する(肥料や機械がなくてもできる)。
「土地なし農民」たちが取り戻した土地が焼き畑農業で燃えてるシーンを見て、佐々木さんが「野蛮な……」と絶句するシーンがあったのですが(焼き畑は土中の微生物までも殺してしまう)、岡村さんがそこで「(農法を教えても理解してもらえずに)いやになりませんか?」と訊ねると、佐々木さんは「いやにはならない。(その分)子どもたちにしっかり教えていこう」と応える。
ブラジルでは日本の国土の2倍の土地が大地主によって占有されてるそうです。そのせいで、土地なし農民たちも農業をやめて、ブラジル全人口の3/4が都市部に集中。輸出用の換金作物に転農する農家も多く、自給率もどんどん減っているそうです。グローバリゼーションの弊害……。 〉
今回、『赤い大地の仲間たち フマニタス25年の歩み』を、もういちど観てよかった。
最近、再読とか、再聴(こんな言葉あり?)で気づくことが最近多いです。あれだけ何百回と聴いていたshing02の「luv(sic)part2」だって、「みんなのうた」映像(「みんなのうた」というのはフェイクだろうけど、それも含めてすごい!)で、あの映像と日本語訳詞を同時に音楽と見て初めて、そのメッセージに本当に触れたような気がしたし。
昨日から再び読み始めた船戸与一の小説「山猫の夏」も、ブラジル・ペルナンブコ州の片田舎が舞台で、主人公は日本人移民。最初に「キロンボ」のことが説明されてます。
〈ブラジルに運搬された黒人奴隷は東北部の熱暑のなかで過酷な労働を強制されたわけだが、1630年から40年にかけて黒人奴隷たちのすさまじい逃亡がはじまる。このころ、ペルナンブコ州は揺れに揺れていたのだ。オランダがポルトガルからペルナンブコ州を奪い取り、政治状況は何が何だかわからない状態にあった。黒人奴隷たちはその混乱に乗じて農場から逃走し奥地へ奥地へと進んでいき、白人植民者の眼の届かないところまで来て、そこに村落を形成した。この逃亡奴隷の村落はキロンボと呼ばれる。語源はアフリカのヨルバ語だ。おれがサンパウロ歴史学の学生に聞いた話で17世紀の後半には内陸各地にできたキロンボの総人口は10万人を越えていたらしい。〉(船戸与一「山猫の夏」より)
『赤い大地の仲間たち フマニタス25年の歩み』の舞台はパラナ州サンジェロニモダセーラだし、17世紀ではなくもちろん現代のドキュメンタリー(2002年)だけど、キロンボと共通している部分もある。岡村さんがカメラで追った佐々木神父は、ハンセン病患者たちに、ストリート・チルドレンたちに、そして「土地なし農民」たちに、治療、教育、給食、自給自足、そして持続できる有機農法を教えていく。現実的な救済。解放。まさに現代のキロンボのリーダー、GANGA ZUMBA(17世紀、ブラジル最大のキロンボの指導者の名前)。
だけど、「大きな物語よりひとりひとりの人間」。これはなんの文脈での発言か忘れてしまったけど、今夜のゲスト、宮沢和史(新バンド名は「GANGA ZUMBA(ガンガズンバ)」です)のステージでの発言が、岡村さんのドキュメンタリーにぴったりな表現のようながします。貧しい人たちの解放の物語ではなく、佐々木神父というひとりの日本人移民を追ったドキュメンタリー。
「岡村さんは人間が好きなんだなあ」というのが僕の強い感想でした。例えば、僕が編集(映像じゃなくて文字系だけど)をやっていて、内容の整合性の面から削ってしまう発言というのはインタビューでよくあります。でも、岡村さんのドキュメンタリーでは、時に素っ頓狂に思える発言も切らずに残していて、それがその対象人物の表現に、最終的に必要不可欠なものに思えてくる。いろんな面があってその人の魅力が浮かび上がってくる。こういうのってやっぱり「物語」より「人間」が好きじゃないとダメなのかも。
映画のあとに聴いたMIYAのギター弾き語り、移民について歌った「沖縄に降る雪」、新曲「足跡のない道」を聴くとまたメッセージがぐいぐいと来ました。「島唄」も何百回も聴いたのに毎回違う。
今年はブラジルに日本人が移民して100周年。宮沢和史がボーカルを務める新バンドGANGA ZUMBAはこの7月、ブラジルをツアーします。