memo

5月19日
TOKYO 0円ハウス 0円生活 (河出文庫) いまいちばん気になる人、坂口恭平さんの河出文庫からの新刊(本書自体は2008年刊)。のちの『0円ハウス』(2004)や『ゼロから始まる都市型狩猟採集生活』(2010)に繋がる、隅田川多摩川でのフィールドワークを記した本。〈一軒一軒とにかく体当たりでドアを叩いてみることにした。少々恐怖感もあるにはあったのだが、それよりも興味の方が勝っていた。〉(P204)。「ドアを叩く」というのは比喩ではなく、ほんとうに多摩川沿いのビニールシートや段ボールハウスの住人を、上流に向かって訪ねていっている。やりとりのひとつずつに発見がある。この好奇心が扉を開き、新たな縁を作り、すべてを動かしていく。都市の風景は、思考の解像度で変わる。本書登場人物、鈴木さんの「ギブ&ギブ&ギブでね」という言葉は、いまの坂口さんの言動の軸になっているかも。
5月20日
Chim↑Pom「REAL TIMES」展→。震災以降ここ2ヶ月内の福島県相馬、渋谷、福島第一原発近くの3場面での、彼らの行動ドキュメンタリー映像が展示の主軸。その中でも僕にとってメインと感じたのは、『気合い百連発』。あの徹底的な破壊の光景の中で円陣組んで気合い出すという、やけっぱちな切実さ。
5月21日
高尾山口駅から南高尾山稜→大垂水峠→高尾山と、ぐるっとひとりで歩く。約4時間強。
5月22日
ニュークリア・エイジ (文春文庫) 何度目かの再読。
核戦争に怯え、ある夜、地下室に鉛筆や木炭とピンポン台でつくりあげた「僕」の手製核シェルターを、翌朝、両親は「半分怯えたような、半分おかしがっているような、どうしたものか頭をひねっているような目で」見る。
〈いったいどこがおかしいのか、僕には理解できなかった。朝食の席で僕は彼らに説明した。放射能は実際に人の命を奪うのだということを。純粋な毒なんだよ、と僕は言った。(…)でもなんだかそのうちに僕は防御的になり、なんとなくやましいことをしているような気分にさえなってきた。結局は黙ってパンケーキの残りを食べ、急いで学校に行った。やれやれ、と僕は思った。僕は頭がいかれちゃったんだろうか?〉
ティム・オブライエン(訳=村上春樹)『ニュークリア・エイジ』P33より抜粋。
〈世界はメタファー中毒にかかっているね、と僕は思う。メタファーは我等が時代の阿片なのだ。誰も恐れない。誰も穴を掘らない。人々はリアリティーに音韻の衣を着せ、化粧を施し、それをお洒落な名前で呼ぶ。どうしてみんな穴を掘らないのだ? 核戦争。それは何かの象徴なんかではない。核戦争 ――と口にするのがそんなに恥ずかしいかい? それはあまりにも散文的すぎるかい? 直截的にすぎるかい? 聴けよ。――核戦争――そのごつごつとして耳障りで陳腐で日常的な音節を。僕は大声で叫んでやりたいと思う。核戦争!と。」〉
5月29日
スティーヴン・キングの新作『アンダー・ザ・ドーム』、上巻をまず読了。キングの作品ではお馴染みのキャッスルロックの隣町が、とつぜん「霧」のような障壁で遮断され、孤立してしまうという設定で、どうしても進行形のこちらの現実を意識してしまう。
5月30日
熊本の新政府ゼロセンター、二階の八畳間より「新政府ラジオ」配信。七尾旅人ライヴ。灯りなし、マイクなし、PAなし。子ども3人ぐらい、旅人のまわりから離れず。後で明かされたルールによると「本日は大人は騒がず、子どもは自由」。子どもたちが走り回る音、声もマイクは拾う。「星に願いを」。騒々しいのではなく、自然なあたたかさの中で歌が紡がれていく。「どんどん季節は流れて」で坂口総理がフリースタイルのラップを披露。「躁状態」と旅人に言われるほど。ラップは「ローリンローリン」でも担当したが、このときは総理の速度が全然ちがう。アッパーな終わらないソウル。未発表曲「サーカスナイト」。レコーディングではヒップホップ的な曲にするつもりというこの曲を弾き語りで。一曲だけ、「この曲の間だけは子どもたちは階下へ」、という旅人のリクエストがあり、静かに歌われたのが「圏内の歌」。福島のために作られた歌。だれかのすすり泣く声が聞こえた。ほか、覚えている曲は「私の赤ちゃん」「リトル・メロディ」。ラストは、このゼロセンターのために選んだという「オーバー・ザ・レインボー」日本語詞。終わると同時に坂口さんが「虹」(電気グルーヴ)のフレーズを鼻歌し始め、虹つながりということで、七尾旅人が一番、坂口恭平が二番を歌うセッションを行なうことに。坂口さんは自分の番になると、ギターまで受け取り、それをかき鳴らしながら繰り返す、振り返る……。印象に残ったトークは「カルト」についてかな。冗談まじりで、新政府を「カルト」扱いするネタ。日本がいま無政府状態でカルトみたいなものだから、みんな国をどんどん作ったほうがいい。七尾旅人は弾き語りしながらふらふら移動するひとりだけの「七尾旅人王国」を。国ブーム。ホームセンターに行けば国を作るキットが売られるぐらいの……というような話。