陣馬山に登ってきました

昨日の夜は、近所のスーパーでたぶん小学生以来、板チョコを買って来ました。明治の「ガーナブラック」という、きっと昔からの定番商品。88円だった。意外と安いんだ、と思った。
板チョコを買ってきたのには理由がある。今日僕はトレッキングに行ったのだ。山の中で空腹になってエネルギー切れになるなんてことはもうたくさんだ。それに先日、新田次郎の小説『八甲田山の死の彷徨』を読み、昨夜から山と渓谷社の『登山入門』なる本も読んでいるのだ。いざというときのための準備を怠るわけにはゆかぬ。
いくら天気予報が降雨確率ゼロと主張していようが、僕が山に行くからには雨は降るのだ。道には迷うのだ。そして、この板チョコが僕らの命を救うのだ……というわけには全然ならなかった。幸いにも。気象予報士はきっちりと職務を果たしたし、優秀な仲間は地図も磁石も、あまつさえ高度や気圧が計れる腕時計まで持参していた。だから雨に濡れることも、遭難することもなく、トラブルといえるものは僕が家に財布を置き忘れて出発してしまったことぐらい。無事、トレッキングは終了しました。あー、楽しかった。
小仏峠から陣馬山山頂までのコース。地図は下のURLを参照。
http://www.tokotoko-takao.info/rootmap/rootmap08.html
同行者は、kwlskiさんと、dj荒川さんと、いとうさん(Sunday)と、いそざきさん。朝の8時30分に高尾駅(3週連続!)に5人は集合して、満員のバス(2台同時に出発した)で終点の小仏へ。バス2台分の乗客全員がトレッキング。ご年配グループが多い。バス停というよりは空き地に降りた人たちは、それぞれにストレッチを行ない、グループごとに歩きはじめる。
僕らが歩き始めたのは他の乗客たちのほぼ最後だ。最初はバスが通ってきた道路を登る。車はほとんど通らない。民家の軒先に無人売店があって、手作りのお握り(一個100円)や、梅干しのパックなどが売っていた。僕は昼食用にお握りを自分で作ってきたのだけど、次の機会があればここで買うのもいいかも(でも、売ってなかったら途方に暮れるな。そんなときこそ板チョコの出番だ)。
登山口から山道に入っていき、約40分、階段、木の根道の急勾配を一気に登る。登りきった小仏峠で最初の小休憩をとる。標高560メートル。
最初は高尾山からこの小仏峠を経て、陣馬山までトレッキングの予定だったけれど、高尾山頂までの混雑や、かかる時間を考えて、バスでのショートカットを選択したのです。もし高尾山山頂から歩いていれば小仏峠まで1時間30分ぐらい(さらに高尾山口駅から高尾山山頂までの1時間30分、合計3時間が加わる)。
リュックを下ろして竹のベンチでお茶を飲んだり、パンを食べていると、あたりを歩き回っていたkwlskiさんが「あっちにちょっと面白い場所があるんだ」と言う。おー、朽ちかけた茶屋と、地名の由来となった小さな石仏、簡単なアコースティックライヴができそうな舞台(?)、その客席となりそうな向きで並んだベンチがたくさんあった(写真右上)。 ここで、kwlskiさんが、キツツキの鳴き声を聞き分けるという特技を発揮する。キツツキの鳴き声は文字に表すのは難しい。サウンドチェックも初めてのドラマーがおずおずとスティックで感触を確かめてるかのようなドラミング音。kwlskiさんは伝説と経歴がとにかく多い人だけど、今日は元・野鳥の会の知識を発揮する人だった。オオタカがカラスを捕獲する方法を教えてくれたり(高尾山に本当にオオタカが生息するのか気になっていま検索したら、オオタカ「高尾山天狗裁判」の原告にも名を連ねてた!)、シジュウカラの鳴き声を聴き当てたり。
小仏峠から景信山山頂までは、いちど下り、また登っていく。トレイルランナーと何人もすれ違う。後ろから抜いて行くランナーは、きっと高尾山から走ってきたのだろう。向こうから来るのはもしかして陣馬山から10キロほど走ってきたランナーなのだろうか。となると、何時に出発してるんだろう。すれ違う際にはどうしても足下に注目してしまう。トレラン用のシューズを買ったほうがいいのだろうか。あと、ガレ場や木の根道を駆け下りていくテクニックは、目前で見ると、勉強になるというレベルではなく、果たして自分にこんな芸当が可能なのかとやる前から自信喪失してしまうぐらいだ。
標高772メートルの景信山山頂には、茶屋が二軒営業していて、登山客もたくさんいた。30名近いご年配の登山会の人たちが、豊富なおかずで昼食をとっている。景信山名物というナメコ汁(250円)にも心をひかれたけど、僕らは水分補給と、僕が持ってきた板チョコ、いとうさんが持ってきたポッキーみたいなお菓子を分け合って食べるだけにとどまる。さすがに昼食にはまだ早い。この時点で11時。それにしても僕はお菓子に疎い。『ピンポン』のペコのように、「最近のチョコレートときたら、軟弱の極みだよね。マイクログラインド製法のせいかしらん。絹練りだの紗々だのどう思うよ。本来チョコの醍醐味ってさ、ガシガシっと粉っぽい所じゃんね」などとうんちくを言ってみたい。
15分ほどの小休止を終え、今度は明王峠を目指す。稜線沿いの道といえばいいのだろうか(山の用語がまだ使い慣れない)、景信山から陣馬山へ向かう道。右の、陽の当たる斜面には広葉樹が、左の陽の当たらない斜面には針葉樹が見事に棲み分けられている。そして気づく。どうも僕は整然と真っすぐ樹立している杉を見てるとなぜか気がめいってくる。蛍光色を使ったような新緑の右側の広葉樹を見ながら歩く。今年の頭にアイルランドとスペインとポルトガルその他を2ヶ月旅してきたいとうさんにみんなが質問を浴びせる。アイルランドではビールが700円ぐらいして、僕らが思っていたよりかはビール好きな人種ではないようだ。僕ら全員、アイルランド人の代表としてポーグスのシェーンを想定していたことが判明。ポルトガルの魚料理の美味さを聞き出してると、磯崎さんの空腹が刺激されることがわかったので、僕もリスボンで食べたことのあるタコのリゾットの美味さを丁寧に説明してあげる。
迷うことのない一本道だから(途中で一カ所、分岐があったけど「まき道」と書いてあったので無視)、地図もチェックしないで歩いていたら、いつのまにか白沢峠を通り越して、約1時間で明王峠までたどり着いた。ここでまた小休止。
陣馬山から降りて来た人たちもここで休憩してるようだ。茶屋は土曜なのに営業してなかった。なめこ汁が売ってたらよかったのにな。代わりに持参のお握りをひとつ食べる。磯崎さんは「お腹すいたー」と言いながら、何も食べてない。kwlskiさんは立ったままコンビニお握りを連続喰いしている。炭酸入りのアクエリアスなる不思議なスポーツドリンクを飲んでたけど、こういうのがもしマラソンのエイドステーションに置いてあったら、ランナーに大不評だと思う。一気に飲み干したらゲップで呼吸がおかしくなっちゃうよ。
明王峠まで来れば、あとは標高120メートル分を登れば陣馬山山頂! 50分というから、もうすぐだ。「ビール、ビール」といるかけ声を頭の中で連呼しながら歩く。
視界が開けて、急勾配な階段が目の前に現れたのでもう頂上間近の予感。「ラスト一本だからねー」と先頭を歩いていた僕がみんなに声をかける。なんか部活みたい。「ラスト一本といって、まだあったりするんだよね」と懐疑的な荒川さん。しかし、「ラスト一本」の昇り階段は、ラスト二本であっさりと頂上に到着。山頂には陣馬山のシンボル、白馬の彫像。その下にはフジロックドラゴンドラの頂上付近のような原っぱが広がっている。僕らは二軒ある茶屋のうち、ドラゴンドラ的ロケーションの「けんしん茶屋」で、名物というけんちん汁(400円)と缶ビール(400円)を購入した。
ビールを飲まない磯崎さんは、小学生から愛用という円形のタッパーにきちんと詰めた手作りのお握りとけんちん汁。kwlskiさんはさっきの明王峠で食料を一気に食べてしまったらしく、ここではビールとけんちん汁のみ。いとうさんと荒川さんはけんちん汁とビールの他に、持参したコンビニお握りとお菓子を並べてる。乾杯、しかしそのすぐあとに、荒川さんが自分の缶ビールを地面に落として、土が入るという不幸に襲われる。けんちん汁は野菜がたくさん入っていて、美味い。濃い味付けが効く。
ぐったりするわけでもなく、はしゃぐでもなく、酔っぱらうこともなく、景色に耽溺するわけでもなく、静かにゆったりする大人な遠足の様相。今朝までまったく接点のなかった初対面の磯崎さんと、荒川さん、いとうさんが昨夜新宿ロフトでソウルフラワーを観てたことがわかる。
山頂の風で、防寒具として用意してきたフリースを重ね着した(マラソンと同じように、冷えるのは身体の先端から。今回は手首から先がいちばん早く寒さを感じたので手袋もあったほうがいいかもしれない。滑って手をついたときに怪我もしないし)
。さらに雨具まであるから今回は装備万全です。財布忘れたからけんちん汁も缶ビールも借りたお金で買ったけど。
さて、帰りは陣馬高原下というバス停まで降りて、そこから1時間に1本のバスに乗って高尾駅まで戻る計画でした。でしたが、バスの時間にあわせて下山すること(約1時間の道のり)と、料金540円分のバスに乗っている時間が、どうにも気が進まなくなり、途中で「藤野方面」と書かれていた標識があったので、「藤野駅に降りるルートはどう?」と提案してみた。
僕が持っていたの地図はただのスタンプラリー用のルートマップなので、ルートから外れた藤野方面への道は載っていない。装備万全といいながら、読めない地図は持たないという潔さ。磯崎さんがすかさず登山地図を広げ、荒川さんが趣味の渓流釣りに持ち歩いているという磁石を取り出し、ルートの検討が始まった。2時間半ぐらい歩くことになるけど、バスに乗るよりそっちにと、すんなり下山ルート変更。こういう予定変更が単独行ではなくパーティなのにできるのが、今回のメンバーの良さだと思った。実際僕ひとりだったら藤野行きに変更しただろうけど、きっと道に迷っていただろうし(道迷いに関しては信念に近いものがある!)、普通のパーティだったら計画通りであることを優先させるだろう。
磯崎さんがトップに立って、出発。最初は急で、つづら折りの下りだったけど、そのあとの栃谷尾根は整備されている下りで、ビールを飲んでいたこともあって眠りそうになりながら歩く。歩きながら、磯崎さんに雲取山(標高2017メートル)の話を聞く。単独行で、避難小屋に一泊しての登山だったそうだ。山小屋に泊まるというのがまだ僕にはハードルが高い。一泊ということは食料や寝袋など、装備も重くなる。すごいなー。
午後なので、この道を登る人にはすれ違うこともなく、先に見えていたのは親子ひと組だけでした。トレランには良さそうな道。1時間半ほどかけて藤野の里に降りた。
藤野へ降りたいと思ったのには理由があります。バスに乗りたくない、もう少し歩きたい、という理由とあとひとつ。去年、いちばん楽しかったフェス「ひかり祭り」の開催地が藤野だったからだ。「藤野」に降りてみようかなんて予定外の選択肢を思いつくなんてことは、「ひかり祭り」に去年参加してなかったら出てこなかったことだし(このパーティでは5人中3人が「ひかり祭り」に遊びに行ってた)、「ひかり祭り」が楽しくなかったらそんなことは思わない。
山道が舗装された坂道になって少しすると、この茶畑が目の前に広がっていました。藤野の里。大きくなりすぎたタケノコ(もう「子」ではない?)がニョキニョキ飛び出てる。山の中も良かったけど、橋の欄干からみんなで身を乗り出して川の中で鮎が泳いでるのを見たり、一台しか通れない細さの長いトンネルをちょっと緊張しながら歩いたとか、下山口から藤野駅まで歩いた時間も気持ちよかったです。