『クラ/島々をめぐる神秘の輪』を観た

中央大学で『クラ/島々をめぐる神秘の輪』というドキュメンタリー映像を観た。「文化人類学解放講座」前期の最終講義
「クラ」とは、パプアニューギニアのトロブリアンド諸島でおこなわれている、貝殻で作った宝飾品を交換する慣習のこと。もちろん僕は今日はじめてこの慣習や地名を知った。
腕輪は左回りに、首飾りは右回りに、島々を特別なカヌーでめぐりながら、「クラ」は続いていく。文字を持たない彼らの文化の中で、この慣習は3000年も続いているという。今日観た映像は1992年に撮影されたもので、先週は1971年撮影の映像がこの講義で上映されたそうです。
現代文明がこれらの島々にも押し寄せ、エンジン船が登場し、貨幣経済流入しようとも、「クラ」の本質的な部分は変わらない。それが、与えることによって所有する、という「ギフトエコノミー」という文化。
ただし、文化人類学とは、こういった遠い場所の、特異な習慣を、分類し、標本にすることではない。今日の講義では、1910年代にこの地を調査した、ブラニスラウ・K・マリノウスキーの次の言葉が引用された。
〈原住民に関する研究で、ほんとうに私の関心をひくものは、彼らのものごとに対する見方や世界観であり、原住民がそれによって生きていく生活とそこで呼吸されている現実の息吹きである。あらゆる人間の文化は、その文化をつくる者たちに、一定の世界観をあたえ、はっきりとした人生の意味を示してくれる。人間の歴史をめぐり、地球の表面をさまよい歩いてみて、私の心をもっともとらえ、異文化にしたがって、異なるタイプの人間の生を理解しようという気持ちにならせたのは、人生と世界をさまざまな角度からみる可能性だった。人間の科学にとりくめるかどうかをきめるのは、さまざまな文化の多様性と独自性に愛情を感じるかどうかである。私たちの最終的な目的は、私たち自身の世界の見方をゆたかにし、深化させ、私たち自身の性質を理解して、それを知的に、芸術的に洗練させることにある〉(「西太平洋の遠洋航海者たち」より)
もうひとつの世界は可能だ、というスローガンがあるけれど、文化人類学とは、もうひとつの世界から自分たちの世界に必要な知恵を学び、フィードバックさせる方法だと思った。そして、この「文化人類学解放講座」では、知識は共有物であり、分け合うことが重要であるという。貝殻の装飾品は僕にはとりあえず不要だけど、こういった知識の共有、分け合うことにはとても興味がある。いまはもらうことばかりかもしれないけれど。